最初の晩餐。
キャストに惹かれたのだけれど、あまり多くの映画館では上映されていないようです。
「父の遺言は目玉焼きでした」
一体どんな映画なのでしょう!?
有楽町のビックカメラの8階にある、角川シネマ有楽町で観てきました。
あらすじ
独立して2年目となるカメラマン、東麟太郎(染谷将太)は、姉の美也子(戸田恵梨香)とともに薄暗い病院の食堂で、麺がのびきったラーメンを食べている。
「親父が死んだ……。65歳になる直前の、夏至の日の明け方だった」
久しぶりに故郷に帰ってきた麟太郎は病室で亡き父・日登志(永瀬正敏)と対面し、葬儀の準備をしながら、ありし日の家族を思い出す。
通夜の準備が進む実家の縁側で、麟太郎がつまらなそうにタバコを吸っていると、居間では、ちょっとした騒動が起きていた。通夜ぶるまいの弁当を、母・アキコ(斉藤由貴)が勝手にキャンセルしていたのだ。なにもないテーブルを見つめて戸惑う親戚たち。母は自分で作るという。それが父の遺言だ、と。やがて最初の料理が運ばれてくると、通夜の席はまた、ざわつき出した。母が盆で運んできた料理は目玉焼きだった。
戸惑いながらも、箸をつける麟太郎。目玉焼きの裏面を摘む。ハムにしてはやけに薄く、カリカリしている。「これ、親父が初めて作ってくれた、料理です」
登山家だった父・日登志と母・アキコは再婚同士で、20年前に家族となった。麟太郎(外川燎)が7歳、美也子(森七菜)が11歳の夏だった。 新しく母となったアキコには、17歳になるシュン(楽駆)という男の子がいた。
5人はギクシャクしながらも、何気ない日常を積み重ね、気持ちを少しずつ手繰り寄せ、お互いにちょっとだけ妥協し、家族として、暮らしはじめていた。 それは平凡だけど、穏やかな日々だった。
しかし、1本の電話が、まるで1滴の染みが広がるように、この家族を変えていく…… 。
そして兄のシュンは、父と2人で山登りへ行った翌日、自分の22歳の誕生日に突然、家を出て行った。
父も母もなぜか、止めようとはしない。以来、家族5人が揃うことはなかった。
次々と出される母の手料理を食べるたび、家族として暮らした5年間の思い出が麟太郎たちの脳裏によみがえる。
それは、はじめて家族として食卓を囲んだ記憶だった。
兄弟で焼いた焼き芋、父と兄が山で食べたピザ、姉の喉に刺さった焼き魚の小骨。あのとき、家族になれたはずだった。あの日、父と兄になにがあったのか? 死の寸前、父はなにを思ったのか?
姉が抱えている小さなキズとは? 母が長年隠し続けてきたこととは?
家族として過ごした5年間という時間。それは、短かったのか?長かったのか?父の死をきっかけに、止まっていた家族の時がゆっくりと動き出す。
そして通夜ぶるまいも終盤に差しかかったその時、兄のシュン(窪塚洋介)が15年ぶりに帰ってきた……。
「最初の晩餐」レビュー
【86点】
家族が初めて出会った最初の晩餐で振る舞われた「目玉焼き」
そこから家族は始まった。
そして現代。
父が亡くなり、久しぶりに家族が集った通夜で出された「目玉焼き」から、家族が再び家族となる晩餐が始まる。
監督、脚本、編集は、今作が長編映画デビューとなる常盤司郎。
思い出の食事を通して、止まってしまった家族の時間が動き出す。
食事で魅せる映画かと思ったら、食事の思い出を通して語られていく、きちんと作り込まれた家族の繋がりを描いた映画だった。
家族とは何なのか、分からなくなってしまった「今」と、家族が一つになりかけていた「昔」
父はどういう家族を作りたかったのか。
親と子、大人と子供のそれぞれの葛藤も良く描けていた。この監督は、人物の描写が実にうまい。
父の思い出のレシピを通して、昔を回顧しながら、家族がまた一つになっていく。
この映画で描かれていたのは、人の心の開閉だった。
初めて家族になった時、新しい家族に戸惑い心閉ざしながら、毎日の平凡だけれど穏やかな暮らしの中で少しずつ心を開いて受け入れていく。
心を開いて家族に寄り添いながら、ふとした出来事で心を閉ざし、また離れていく。
人間同士、家族同士、ちょっとしたことでうまくいくことがあれば、うまくいかないこともある。
そのちょっとしたことは、相手の問題というよりも、自分が心を開くか、心を閉ざすかなのかもしれない。
家族それぞれの人物の、それぞれの想い。
自分の心の置き所はどこなのか。
相手に対し、自分に対し、何を許し、何を信じ、何を求めるのか。
当たり前が、有り難い。その感覚を大切にしたいと思える映画でした。
きっと、観る人にとってさまざまな印象を与える良い映画です。もう一度、観に行きたいと思う。
キャストのみなさん、とても良かった。この監督の映画は、これからも観ていきます。