読書ダイアリー

【この本こんな風に読んでみました】ほどなく、お別れです

「ほどなく、お別れです」

ひとつ、ひとつ、この文字並びの中に、最後の別れの気配を感じ、人から人への礼節のある一礼が見えてくるようです。

さりげないけれども、厳粛な境界線が見えてきて、ここから先、わたし達は、亡き人を見送るべきだと、覚るのです。

死者との別れを、そして、死者がほどなく旅立つことへと見送る。

死者を見送る人達が、最も適切な感情で、境界線を越えることなく、別れることを可能にする、あるいは自責の念からも許しを得る、そして癒される、これは、そのため言葉、あるいは、挨拶。

「ほどなく、お別れです」

わたしは、この本に接し、この言葉にめぐり遇ったことで、最後の別れの場で死と向き合った時、この言葉を思い出すことでしょう。

もしかしたら、小さく自らが呟いて、自分に言い聞かせるかもしれない。

あるいは、物語の中をゆく風のように、どこからか運ばれてくるのかもしれません。

葬儀を担う人達の物語

葬儀を担う人達の物語。

人の死を受け入れていくことについて、新しい視線で見つめ、亡くなった人の生前の暮らしと面影、そして残された人達の暮らしを見届ける物語。

亡くなった人の魂、あるいは、もう見えるはずはない姿を感じて、意識を交わすことが可能な人達の物語です。

亡くなった人の魂、そして姿とは、一般的に、幽霊と言われる存在かもしれないけれど、この物語では、『幽霊』という言葉を思い浮かべることはありません。

なぜなら、つい先ほどまで、ともに生きていてた人の魂だからでしょうか。

顔を見合わせて、語り、笑い、ともに暮らしていた人の姿は、決して、幽霊と表現されるべきではありません。

近しい人や親しい人を失ったことのある人は読みながら、「ほどなく、お別れ」をした時のことを思い出すかもしれない。

そして、まさに今現在、心身の病と関わり、近いうちにおとずれる自らの死を考えている人達に、あるいは、これから起こりうる近しい人の死を受け止めようとしている人にも、この本は、やさしくあたたかく寄り添い、語りかけてくれます。

もともと、死という出来事は、解釈していくことではなく、体感していくことであり、実感していくことであると、物語はわたし達に伝えます。

美しい境界線を見つめて

著者も最愛のご主人を亡くした経験があり、ご主人の看病をなさっている時期に、小説を書いていたと、プロフィール文で拝読しました。

そこで、

—主人は眠っていることも多かったので、
空いた時間に家で小説を書くようになったんです。

という言葉に接しました。

著者が文字を綴る指先が、見えてくるようで、その動きは、この物語の中に込められた静かな流れと同じ鼓動でした。

「ほどなく、お別れです」

そう、伝えられた時、わたし達は、目の前におかれた「死」と、静かに別れるために、死者をあちらへと見送るため越えてはならない美しい境界線を自らの指でひいて、さようならを体感していくのでしょう。

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理里有楽
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小鳥とともに過ごしています。 読んだ本のこと、観たドラマのこと、日々感じたことを少しずつ書き留めていけたらと思います。

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